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東京高等裁判所 平成11年(行コ)221号 判決

控訴人

株式会社 ナショナルランド

右代表者代表取締役

木下清

被控訴人

静岡税務署長 小林義彦

右指定代理人

松本真

安岡裕明

石川誠治

栗田博氏

高橋知志

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人の控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人の平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度の法人税の更正請求に対して被控訴人が平成七年四月四日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

3  訴訟費用は、一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。

二  控訴人の本訴請求の趣旨

右一の控訴の趣旨の2項と同旨

第二本件事案の概要

一  原判決の記載の引用

本件事案の概要、控訴人の本訴請求の前提となる課税の経過、本件における争点とこれに関する当事者双方の主張等は、次項以下のとおり、原判決の記載を補足し、また、控訴人の当審における主張を追加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の項の記載のとおりであるから、この記載を引用する。

すなわち、本件は、控訴人の本件事業年度の法人税について、その所得金額の計算に当たって本件特例を適用し、控訴人がマンションを新築販売するために取得した敷地に係る借入金の利子の額を損金に算入しないものとするなどして被控訴人のした本件通知処分の適否が争われている事件である。

二  原判決の記載の補足

原判決三頁一〇行目の次に、行を改めて、次のように加える。

「なお、本件特例は、借入金による土地取得を通じた法人企業の税負担回避行為に対処し、あわせて地価の高騰につながる土地の仮需要の抑制を図るという観点から、昭和六三年度に創設された特例であり、法人が取得した土地等に係る負債の利子の額のうちの一定限度を、当該土地等の取得後四年間は、所得金額の計算上損金の額に算入しないものとし、この損金の額に算入されなかった負債の利子は、右の損金不算入期間経過後の事業年度から四年間で均等額を損金の額に算入することができるものとし、また、右の損金不算入期間とされる四年間の期間内であっても、当該土地等が一定の建造物の敷地の用に供されるなどした場合には、それ以降はその土地等に係る負債の利子の額を損金に算入することを許容するものとすることなどをその内容とするものであり、その後、平成一〇年一月一日以降は、土地を巡る状況や経済情勢にかんがみ、本件特例は廃止されるに至っている。」

三  控訴人の当審における主張の追加

前記引用に係る原判決の事実摘示(原判決七頁二行目以下の〈3〉の項)にあるとおり、控訴人は、審査請求段階での主張に沿って、原審においては、控訴人が本件事業年度に販売したのは、本件マンションのうちの九階九〇二号室以外の一〇戸であると主張した。しかし、これは、審査請求段階における審判官の誘導によってされた事実に反する主張であった。真実は、本件事業年度に控訴人が販売したのは右の九〇二号室一戸だけであり、その余の一〇戸は、翌年度に販売したものである。

第三当裁判所の判断

一  原判決の説示の引用

当裁判所も、控訴人の本件事業年度の法人税について、その所得金額の計算に当たって本件特例を適用し、控訴人が本件マンションを新築販売するために取得した敷地に係る借入金の利子の額を損金に算入しないものとするなどして被控訴人のした本件通知処分には、違法とすべき点はなく、したがって、本件通知処分の取消しを求める控訴人の請求には理由がないものと判断するが、その理由は、次項以下のとおり、原判決の説示に訂正等を加え、また、控訴人の当審における追加主張に対する判断を付加するほかは、原判決がその「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」の項で説示するところと同一であるから、右の原判決の説示を引用する。

二  原判決の説示の訂正等

原判決二一頁九行目から一〇行目にかけて「それが徴税の努力等を要請することにはなっても、」とあるのを「租税法の定立に関して立法府に認められるべき右のような幅広い政策的な裁量判断を前提にすると、」に、同二四頁一二行目及び同二五頁三行目にそれぞれ「供する目的」とあるのをいずれも「供することを目的」に、同二八頁一行目の「のみならず、」とある部分から同五行目末尾までを「また、個々の法人の具体的な事業活動や所得の内容等に関する差異を捨象して、単に統計上の数値に基づいて計算した他の大部分の法人に係る税負担率の平均値と比較した場合に、控訴人に課される税負担率が著しく高率になっているからといって、そのことから直ちに、本件特例を控訴人に適用してされた本件通知処分が憲法一四条一項に違反することとなるものとすることも困難なものというべきである。」にそれぞれ改める。

三  控訴人の当審における追加主張に対する判断

控訴人は、当審に至って、その更正請求や審査請求の段階での主張、さらには原審における主張を翻し、控訴人が本件事業年度に販売したのは、本件マンションのうちの九階九〇二号室一戸だけであり、その余の一〇戸は、翌年度に販売したものであると主張するに至っている。確かに、控訴人の帳簿である総勘定元帳から作成されたものとみられる売上高抜粋(甲二一、二二)には、右の控訴人の主張内容に沿った記載がされているところである。

しかしながら、控訴人からの審査請求に対する裁決書(甲八)において、関係資料の記載に基づいて裁決庁が説示しているところからすれば、その売買契約日、売買残代金の支払日さらには各戸の鍵の引渡日等からして、本件マンションの右の九〇二号室を含む一一戸すべてについて本件事業年度内にその引渡しがあったことが認められ、これら一一戸が全て本件事業年度内に販売された事実が認められるものというべきである。右の控訴人の側における帳簿の記載は、右の認定を左右するには足りないものといわざるを得ない。

したがって、控訴人のこの点に関する主張も失当である。

第三結語

以上によれば、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから、控訴人の本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 増山宏 裁判官 合田かつ子)

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